ジブリ 君たちはどう生きるか【ネタバレあり】

 宮崎駿(なお引退中。引退中とは……)もこれで最後かもと思って観てきた。ボブ・ディランが来日したときも同じこと思ってコンサート行ったけどそのあとも元気に来日した。健康はいいことだ。

 オデヲン初めて行きましたが結構いいですね。狭いから飲み物自販機、食べ物持ち込み。紅茶花伝の410mlしか入ってないフルーツティーが200円で売ってて、買っていやタッカ!!ホッソ!!と思ったけど上映中に観るにはいいサイズなのでおすすめです。あとすっきりした甘さでおいしい。

 

 出てくる女中のおばあさんたちと、大好きな「階段をハシゴみたいに駆け上がるシーン」が観られたのは良かった。あとは、あんまり。こういう映画も悪くはないけど、個人的にもののけ姫とかぽんぽことか、ああいうジブリが好きなので、ちょっと好みには合わなかったかな。TVシリーズエヴァの終盤観てるときの気分もこんなだった、と久々に思い出しました。事前情報を隠すほどのものなのかもわからない。

 母を火災で喪ったこと、その傷が癒えないうちに母の妹と父が再婚したことによる父への不信、母にそっくりな継母への戸惑い、全部を乗り越えたり受け入れたりする過程の話……だと思いながら観ていました。が、時間をかけて真人へ感情移入させるつくりにはなっていないので、なんかよく知らない美少年がメタファーの洪水か!って謎の地下世界を駆け回ってなんか納得して家族仲良く暮らしましたとさ(尚序盤で出てきた兄弟は徴兵されたのか以降いっさい出てこない模様)、という感じで、観ているあいだは終始( ゚д゚)コレ。

 エンドロールの米津玄師の歌は起伏がなくて好きでなく、歌詞がまったく頭に入ってこなかった。私、わかりやすい歌じゃなきゃだめなの……。

 あと主人公とヒミのなんともいえない棒読み感が気になってしょうがなかった。特にヒミはわざとなのか語尾の力の入り具合がすごくて煉獄さんみたいだった。怖い。

 

 夏子に心を開いたシーンってどこなんですかね。真人が自分でつけた傷を心配してくれたから? あれは単なる裕福な自分の立場を利用した遠回しな学友への仕返しにしか自分の目には映らなかったので(あとで「悪意」と言っていたし。もしかしたら父親を試した意味もあるかも)、青鷺に狙われたのを矢で救ってもらったところなんだろうか。あるいはやっぱり母の遺した本を読んで、というのが一番大きいのかな。読んだあと夏子を探しに行っていたし。「父さんが好きな人だから」というのは、こんなに早く夏子を受容してしまう自分へのわずかな抵抗とか。

 夏子は青鷺に襲われたとき、大叔父(大伯父?どっちか話していたっけ)が姉の残した真人を連れて行こうとしていることに気づいて、自分の子を地下世界で産んで代わりとしようとしたのかな〜と思ったりなんだり。にしたってあの産屋のシーンは怖い。西洋風の町並みと、急な男子禁制の古い価値観が混ざり合ってるあたり、う〜んお金持ちの世界。ヒミと夏子が後継者に選ばれなかったのは女性だからでしょうね(女性天皇〜……)。

 この地下世界自体は大叔父が現実世界から逃れ、かつ自分の理論を証明するための箱庭で(なぜできたのかは隕石パワーということにする)、その理論が破綻し現実世界のように崩壊しかかっているが、大叔父はこれ以外を知らないため、新しい価値観を学んだ真人にまったく別の理論で世界を作り直してほしい、と願う。しかし軍国主義のインコ大王が割り込んで世界を組み直したことで、箱庭がとどめを刺されてしまう。逃れるすべを失えばあとは現実に戻って生きていくしかない。

 地下世界のもやしもんことワラワラがあの船のシーンだけでさっぱり終わってしまったのは悲しい。ワラワラかわいすぎてワロタ。キリコは体制側で働く人、死者は一般市民で配給を待つ人、ワラワラはその中で生まれ、可能性に向けて飛び立とうとするが、もはや行き場なく抑圧され、道連れを探すペリカンに食われてしまう(最初観たときライフストリームに落ちたクラウドかと思った)。そんなペリカンを撃退するためにワラワラを割り切って一部犠牲にする上流階級のヒミとそれに憤る同じく上流階級の真人の間にはあとから考えるとはっきり線が引かれているよう。ペリカンを丁寧に葬る真人の心からは階級社会はもはや存在していない。

 本来襲われる側のインコが象すら食らうというのは、温厚な生き物(インコが温厚かはやや疑問の余地ありですが)を集めれば平和な世界が構築されるはずだ、と考えて象徴的にインコが集められたが、天敵がいないことでどんどん数が増え、食料がまかないきれなくなり、人をも襲う凶暴性を身に着けていった結果、という感じかなあ。

 

 多分原作の方に地下世界の各地区の考え方は載っているんだと思いますが、読んだことがないので、シンプルに映画を観た感想だけ。読むかな〜どうだろ。ちょっと興味は湧いた。

 ジブリ=大衆娯楽と捉えて観に行くとつらいことになる映画でした。そのため観賞直後は印象がよくなく、疲れてすぐ帰ってしまったけど、こうしてあれこれ考えるには楽しいかもしれません。ただ、もう一回観たいかと言われたら……私はぽんぽこでいいです。