AI: ソムニウムファイル【ネタバレあり】

 最近やって一番面白かったかもしれないゲーム。

 本作のシナリオは「Ever17」のシナリオライター打越さんが担当されていて、平行世界だとか自我だとか、なんだか既視感のあるSFワードがずらずら。特に平行世界系の話は大好きなので(映画「ランダム 存在の確率」とか)、分岐世界でわかった事実が最後たったひとりの主人公伊達鍵に集約されていくところはものすごくドキドキした。さらっと出てきたマンデラエフェクトが物語の核心を表しているとはさすがに思わず。もっと分岐があってもよかったかな〜とちょっと物足りなさがあったけど。でもサクッと終われるのもいいよね。逆裁なんて「この章終わったら寝よ」と思ってから寝るまで2時間かかる。

 わりと最初から伊達の正体を匂わしまくっていて、「もしかしてこうなんじゃないの?」と大半のプレイヤーは気づくと思う。もちろんミスリードもあるので大当たり!ということはないんだけど、最後の最後のネタバラシは言うほど盛り上がらなかったかなあ。でも犀人が沖浦に成り代わっていざ殺すぞ!ってときに5台玉突き事故で臓器破裂の重体になり、イリスにもおでかけ拒否され応太に見つかり、と喋ってたところは散々すぎて笑った。

 

 キャラクターはみんな魅力的。なんかこのキャラクターやな感じだな〜と思ったり、全員悪いやつじゃないか!と疑心暗鬼になったり。みんななにかしら秘密があって、それをああじゃないかこうじゃないかと考えている時間が一番楽しい。それを越えた最後、大多数はいいキャラクターだったなあ〜と良い気分でエンディングを見られた(犀人はちょっとアレすぎて、伊達の顔を見るとなんか嫌な気分になるようになった)。

 好きなキャラクター第1位はもちろんネット界の揮発性溶媒あせとんことA-setことイリス。

 

 かわいすぎる。

 あせとんに盲目になった結果電波発言を完全に間に受けて「あせとんはオレが守る」してたらあせとんが死んだのは、地味〜に苦しかった。あせとんが脳腫瘍のせいで「秘密結社に狙われている」というせん妄症状があって、それを信じると本人の症状がどんどん悪化し、治療できず亡くなってしまう。大事だからこそ疑わなきゃいけないときもある。

 ボスのことは最初キャラデザがあんまり好きじゃなかった。でも、全滅編の取調室での犀人が成り代わったボスが428のアルファルドみたいでめちゃくちゃ怖かったこと、そのあと解決編で同期の柳生に淡い恋心を抱きながらもそれを隠して助け、記憶を失った伊達を拾い支え続けたボスを見て感情が爆発した。ずっと見守ってくれてたんだ、ボス。だいぶ疑ってた……。

 どのルートでも沖浦が救われなかったことだけ心残り。硝子はどう頑張っても物語が始まる前に運命が決まってるから無理とはいえ、沖浦はなんとかなったんじゃないか? みずきを伊達に押しつけて自分はピュータと楽しくやってたんか〜と腹が立つところはあれど、みずきにとっては父親だしなんとか生き残ってほしかった。でもみずきは伊達を選ぶんだけどね! 残念でした! バーカアホ! 「学生の頃受け子のバイトやっててヤクザと親しくなっていろんな死体も見たしそのつながりで闇医者の知り合いもいます」の設定はめちゃくちゃすぎて好きではある。受け子のバイトしてたとか言うな。つかするな。

 

 この3人も好き。特に受付嬢。レムニス行くたびに話しかけまくって、熱海にしつこく誘ってたら事件投げ出して突然彼女と熱海エンドを迎えた。428とか街っぽいよね。

 世島は最初なんて悪いやつなんだ!と思ったけど、政治家としての自分を守るために周囲が勝手に動いて人が死んでいくだけで、世島自身は誰に対しても殺意がなかった(少なくとも解決編では)。犀人に刺される愛香を見て呆然とする姿がなんとも言えず、かわいそうとは思わないけど、エピローグは命はあれど一人だけ救われなかった。犀人が生まれた時点で詰んでいたわけではなく、その後の接し方で犀人が狂っていったのだろう。ただなんとなく嫌いになれない。こういう人はいる。

 

 ただし、ゲームとして残念なところもあった。とりあえずSwitch版での異常な処理落ち。可能であればPS4なりPCなりでやったほうがいいね。確実にSwitchに最適化されていない。後半は回想シーンの映像が頻繁に差し込まれるんだけど、これがめちゃくちゃ重いらしく、3秒くらい沈黙することはザラ。ADVには致命的とも言える。

 2個目は、とにかく特に面白くもない下ネタが伊達によって常に差し込まれるところ。終盤この伊達の下ネタ好きには重大な理由があったことがわかるんだけど、そもそもそのギャグが心底つまらないので、「だから?」という気持ちにしかならなかった。なんか別にここまで下品な方向にふらなくてもよかったんじゃないのか……。まあここは好みですね。

 それから本作のメインとなるソムニウムパート。対象者の夢の世界(深層意識)にダイブして、対象者が隠したり忘れてしまったりした事実を見つけ、事件解決へ導いていくんだけど、夢の中だからなんと論理が通じない。推理だてて進めていけるわけじゃなく、ほぼ勘でやるしかないので運が悪いと最悪総当たりになる。なった。マップも機能していないので瞳のソムニウムで完全に心が折れてそこから攻略見ちゃった。それでもきつい。ボスのソムニウムなんかはもう見なきゃ絶対無理だった。これもあって、分岐はもっとほしかったけどソムニウムパートはやりたくないので結果このボリュームでよかった、と思う。

 

 CERO: Zと知らずに買ったのでまあまあエグくて途中まで引いてたけど、実際ウワーッていうところは「あせとんが氷の切断機に縛り付けられて真っ二つにされるところ」と「ツボの中に世島のバラバラ死体がつまってたところ」の2点だけだった。ソムニウムであせとんが追いかけ回されて背中ザクザク刺されるのをずーっと見せられてたところは、グロいとかでなく救えないのが単純に辛い。なので全体的にはそんなでもないかも。もっかいやれって言われたらやらないくらいのやつ。

 

 エンディングで瞳の右腕が当然のように動いていて、「治った描写あったっけ?」とそっちのほうが気になってしまった。これが伊達の夢オチだったらやだなぁ。

 それはともかくとして、みずきを皮切りにオリジナルの歌詞でみんながどんどんダンスに参加してくるのは多幸感があった。伊達は大量殺人犯で、結果その罪を自分自身で償うことはない、というのはなかなか納得しがたい部分ではあったけど、みんなで楽しそうにダンスしているのを見ると、こういう大団円エンドもいいかもな〜と思ったのでした。続編ぽちったのでやるの楽しみだ。

 

 大人たちは 顔うつむけ ビー玉の目 くもらせてる

 だけどぼくら だけ知ってる 信じる力 奇跡おこすこと

 

 たとえ悪魔が きみを拐おうとしても きっと!

 夜空駆け抜ける 女神 虹の翼でラリアット

 この世界が きみを 消し去ろうとしても Resist!

 ぼくが光 追い越して きみを守るよ

 

 虹ノ矢ハ折レナイ

 

 あせとんイズマイジャスティス!